大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)6130号 判決 1981年4月24日

原告 林和代

右訴訟代理人弁護士 守井雄一郎

被告 大阪府

右代表者知事 岸昌

右訴訟代理人弁護士 俵正市

右同 苅野年彦

主文

一  被告は原告に対し、金六一八万八、九一一円と、これに対する昭和四九年一一月一日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その三を被告、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金一、一五五万円と、これに対する昭和四九年一一月一日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  担保付仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

原告の次男である訴外亡林憲司郎(昭和四六年六月六日生。以下「憲司郎」という。)は、昭和四九年一一月一日午後五時ころ、豊中市服部緑地一番一号所在、服部緑地公園(以下「本件公園」という。)内にある山ヶ池のうち通称白鳥の池(以下「本件池」という。)の西北端の岸から本件池に転落し、溺死した。

2  事故の原因

本件池は、本件公園内の子供の遊戯場である仲よし広場から通称バラの通り道を経た先にあり、その通称どおり、公園を訪れる子供らに親しまれていたが、本件事故現場付近は岸辺から直ちに水深が一ないし四メートルと深くなっており、危険なため、子供らの水際への侵入を制止するため池の周囲に高さ約九〇センチメートルの鉄柵が設置されていた。しかるに本件事故当時、肝心の児童遊戯場に面する部分のコンクリート製擬木と鉄柵との間には約四〇センチメートルの間隙があったため、憲司郎は右間隙から鉄柵内に入って水辺に近づき、誤って本件池に転落して死亡したものである。

3  被告の責任

被告は公の営造物である本件池設置(ここでは池自体の外、鉄柵その他の付属、設置を含む一体としての設備を意味する。)を設置管理しているものであるところ、本件池は児童遊戯場から三〇メートルほどしか離れていず、遊びにやって来る憲司郎のような幼児が水際を求めて本件間隙から鉄柵内に入り込み誤って切立った岸辺から池に転落溺死する危険が予測されるところであるから、かかる危険を未然に防止すべく右間隙を閉す等の侵入転落設備を施すべきであったのにこれを放置したため、かかる通常備えるべき安全設備の設置管理の瑕疵により前記事故を惹起するに至らしめたものである。したがって、被告は国家賠償法二条一項に基づき本件事故により発生した後記損害を賠償すべき責任がある。

4  損害

(一) 憲司郎の損害

(1) 逸失利益

憲司郎は本件事故当時満三才の男子であったから、本件事故がなければ一八才から六七才に達するまでの間就労可能であって、右期間を通じ少くとも昭和五四年度賃金センサス第一巻第一表による産業規模計の男子一八ないし一九才の年間給与額一四二万四、三〇〇円を得ることができたものというべきところ、右のうち生活費として五〇パーセントを控除し、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除してその間の逸失利益の事故時の現価を算出すれば金一二三五万一、五二九円となる。

(計算式)142万4,800円×17.844×1/2=1,285万1,529円

(2) 慰藉料

憲司郎が死亡によりうけた精神的損害を慰藉するには金四〇〇万円が相当である。

(二) 原告は憲司郎の母であり、唯一の相続人として同人の死亡により右損害賠償債権を相続した。

(三) 医療費 金一万一、五一〇円

(四) 葬儀費 金五二万一、一九〇円

(内訳)

(1) 公益社支払 金一四万八、〇〇〇円

(2) 回葬者食事代 金五万八、七二五円

(3) その他 金一〇万九、九〇〇円

(4) 法事費(骨上げ初七日から四九日―満中陰―まで) 金二〇万四、五六五円

(五) 仏壇購入費 金一七万五、〇〇〇円

(六) 慰藉料

原告が憲司郎の死亡によりうけた精神的損害を慰藉するには金四〇〇万円が相当である。

(七) 弁護士費用 金一〇五万円

5  結論

よって原告は被告に対し、右損害金のうち、4項(三)ないし(五)、(七)の損害金一七五万七、七〇〇円と、同項(一)、(二)、(六)の損害金二、〇三五万一、五二九円のうち金九七九万二、三〇〇円の合計金一、一五五万円と、これに対する本件事故発生日である昭和四九年一一月一日から支払ずみまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項のうち、原告の次男である憲司郎(昭和四六年六月六日生)が、昭和四九年一一月一日、本件公園内にある本件池に転落し、溺死したことは認め、転落地点は不知、転落時刻は否認し、死亡が確認された時刻は午後六時である。

2  請求原因2項のうち、本件池の水深の点を否認し、その余の事実は認める。但し、本件間隙と憲司郎の池への転落及び溺死との間には、次の事情により、因果関係がない。すなわち、

(1) 本件間隙から本件池の水際までは約七メートルの距離があるから、右間隙から鉄柵内に侵入しても、直ちに本件池に転落することはない。

(2) また本件事故当時、行動を共にしていた兄訴外林宏充(当時六才)が、転落後直ちに周囲の人に救助を求めていたら憲司郎は死亡しなかった筈である。

(3) 更に第三者が憲司郎を押したことにより本件事故が発生したことも考えられる。

3  請求原因3項のうち、被告が公の営造物である本件公園及び本件池設備を設置管理していることは認めるが、その余の本件池設備の設置管理に瑕疵があったとする点は争う。すなわち、国家賠償法二条所定の営造物責任における瑕疵とは、営造物が通常備えるべき性質又は設備を欠く状態を指すものであるが、本件公園は総面積が一二六・一一ヘクタールあり、この中に七ヶ所の天然の池を取込んでいる広大な公園で、自然の景観を出来る限り保存するよう設計されているところ、本件池は、その中にある修景池の一つであって、そのため本件池設備にも自然の景観の保存と入園者を水難等から守るべき安全設備の設置等との調和が求められるところとなり、通常予測される危険としては、学令以上の子供らが保護者の監視を離れて遊びに来て遭遇する等のことが想定されるところから、それらの者に標準を合わせ、鉄柵や擬木柵を設けたり危険表示看板を掲げたりして安全配慮をしており、これをもって本件池設備に通常備えるべき安全配慮設備を満しているものと考えるべきである。もとより、公園は保育所ではないのであるから、憲司郎のごとき僅か三才の幼児が二時間余も保護者の監視を離れて行動するような有な事態の中で生ずる危険までをも想定して、安全設備を設けなければならない筈はない。

したがって本件間隙があったことをもって本件池設備に設置管理の瑕疵があったものと見ることはできず、この点は、長年右間隙があったにも拘らず、従前事故が皆無であった事実からも明らかである。

4  請求原因4項のうち、原告が憲司郎の母であり、唯一の相続人であることは認め、その余は争う。

5  請求原因5項は争う。

三  抗弁(過失相殺)

仮に本件池設備の設置又は管理に瑕疵があったとしても、本件事故については、被害者側にも過失があった。すなわち、

1  憲司郎は監護を要する三才の幼児であった。

2  原告は右のような幼児を本件池が付近にある本件公園内の児童遊戯場に、本件事故当日の午後三時ころから午後五時ころまでの二時間余監護義務者をつけることなく放置し、約一・六キロメートル離れた阪急曽根駅近くのスーパーで買物をしていた。

3  以上のように、監護義務者である原告には憲司郎が死亡するについて重大な監護義務違反があった。しかして幼児とその親は身分上ないし生活上いわゆる一体をなすものであるから、被害者の母親である原告に前記過失がある以上、これを被害者側の過失として過失相殺をなすのが相当である。

四  抗弁に対する認否

否認する。原告は憲司郎らに仲よし広場で遊んでいるように注意を与えて小一時間ほど買物に出かけたことがあるが、本来本件公園は、児童遊戯場もあり、かつ大人の同伴していない子供達だけでも入園して遊べることになっているのであるから、公園管理者は幼児のみでの来園をも予測して危険防止対策を講ずべきであり、ましてや本件のごとき保護者の監視の一時的な欠如を論難することはできない筈である。

第二証拠《省略》

理由

一  事故の発生

原告の次男である憲司郎(昭和四六年六月六日生)が、昭和四九年一一月一日、本件公園内にある本件池に転落し、溺死したことは当事者間に争いがない。

《証拠省略》によれば、憲司郎は午後五時ころ本件池の西北端の岸から転落し、午後五時すぎころ死亡したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  事故の原因

1  本件池は本件公園内の児童遊戯場である仲よし広場から通称バラの通り道を経た先にあり、遊びに来る子供らが水際まで侵入するのを制止するため、本件池の周囲に高さ約九〇センチメートルの鉄柵が設置されていたこと、しかるに本件事故当時、児童遊戯場に面する部分のコンクリート製擬木と鉄柵との間には約四〇センチメートルの間隙があり、憲司郎は右間隙から鉄柵内に入って水辺に近づき、本件池に転落して死亡したことはいずれも当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、憲司郎は右間隙から約七メートルほど先の本件池に至り、池の外周にめぐらされた垂直状の石積護岸先端の巾約〇、三五メートルのコンクリート部分を歩行するうち、誤って先端から水面まで約〇、五メートル水深約一、六メートルの水中に転落したことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

2  被告は請求原因に対する認否第2項中において(1)ないし(3)の事由をあげて本件間隙の存在と本件事故の発生との間の相当因果関係を争うが、

(1)  本件間隙から本件池の水際までの間に約七メートルの距離があることをもってこれを否定することはできないし、

(2)  《証拠省略》によれば、訴外林宏充、同河本寛は、憲司郎転落後、直ちに周囲に助けを求めようとしたが、もはや日没時で周囲に人がいなかったため、駐車場へ行き、そのころ買物をすませて帰ってきた原告に対し事故を告げたこと、原告は直ちに本件池へ馳けつけたが、憲司郎の姿を発見できなかったため、午後五時一〇分ころ、本件公園事務所に事故を知らせたこと、右事務所職員二名が本件池に急行し、憲司郎を引き揚げ、約二〇分間人工呼吸をした後、到着した救急車に引渡したが、憲司郎は、未だ脈があったものの、池田病院到着前に死亡したことが認められ、右認定に反する証拠はない。右認定事実によれば訴外林宏充の救助依頼が遅れたせいであると論難することもできない。

(3)  第三者が憲司郎を押したことにより本件事故が発生したことは、本件全証拠によるも未だ認められない。

三  被告の責任

1  被告が公の営造物である本件池設備を設置管理していることについては当事者間に争いがない。

2  本件池設備の設置管理の瑕疵について

(一)  《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(1) 本件公園は、昭和二五年八月開設されたもので、天笠川と高川との間の丘陵地にあり、その総面積は一二六・一一ヘクタールに及ぶ広大な近隣公園で、野球場、テニスコート、芝生広場児童遊戯場などの人工施設、山ヶ池をはじめ自然の池七ヶ所を包含しており、自然の地形及び景観を最大限に生かして設計されている。

(2) 本件池についても、対岸からの景観を重視し、凸部分二ヶ所を除き、対岸から直接見えない位置である池端から約七メートル離れた位置に鉄柵が設けられている。

(3) 本件間隙は、特別な理由があって設けられたものではなく、工事の手違いによって生じたものであり、右間隙を鉄柵等で遮断しても修景上何らの問題はないし、また、容易にそれを遮断することができる。

(4) 児童遊戯場と本件間隙の距離は、通称バラの通り道を経て約三〇メートルほどであり、幼児も同間隙部分に容易に近ずける。

(5) 本件間隙から柵内に入ったところに、どんぐりの木があって、そこで憲司郎らはどんぐり拾いをして遊んだことがあり、他の子供らも付近で遊んでいたことがあり、また本件間隙から鉄柵内には少なからず人が出入りした形跡が窺われる。

(6) 被告の北部公園事務所の職員らは本件間隙の存在及び子供らが右どんぐりの木の付近で遊んでいたことを知悉していた。

(7) 本件公園は、本件事故当時、年間三〇〇万人以上の家族連れや若者のグループに利用されており、これを被告の前記北部公園事務所長以下正規職員三五名、臨時職員数名のみで管理していた。

(二)  右認定の各事実及び前記第二項記載の各事実、とりわけ、(1)本件間隙は本件公園内の児童遊戯場から僅か約十メートルのところにあり憲司郎のような幼児もこれをくぐり抜けて本件池の護岸天端に至ることが予測されないところではなく、現に本件間隙から鉄柵内へ子供らが出入した形跡も窺われるところであり、その結果万一幼児が誤って切立った右護岸から水中に転落した場合、護岸の高さ形状及び水深からみて独力ではい上ることは至難で溺死する危険性が高度にあり、(2)当時年間三〇〇万人からの近隣住民が同公園を利用しているのであるから、中には保護者のいない幼児も混じることが予測されないところではなく、(3)更に本件池設備は修景上安全施設の設置に一定の制限があったけれども、本件間隙はそのために残されたものではなく、単なる工事上の手違いから生じたものにすぎないのであって、これを閉鎖することはすこぶる容易であったし、(4)本件公園を管理していた被告の北部公園事務所の職員も、右間隙の存在及び子供らが同所から鉄柵内に出入りしていることを察知していてこれを放置していたものであることなどを考慮すれば、本件池設置の設置管理には瑕疵があったものと認めざるを得ない。

(三)  なお(1)前掲記載によれば被告は本件間隙の付近に「あぶない!!ここで水あそびをしてはいけません」とか、或は同旨のイラスト絵入りの立看板を設置していたことが認められるが、憲司郎のような幼児には効果がなく、(2)また公園において、憲司郎のような幼児には監護義務者の同行監視が切望せられるところではあるけれども、監護義務者が右監護義務を怠ったことをもって、直ちに被告に免責する理由とはなりえないし、(3)更には、前掲証拠により本件事故当時までに本件のような転落水死事故がなかったことが認められるけれども、これをもって、前記の結論を左右することもできない。

3  したがって被告は国家賠償法二条一項に基づき本件事故により生じた後記損害を賠償する責任がある。

四  そこで、原告の損害について判断する。

1  憲司郎の損害

(一)  逸失利益

憲司郎は本件事故当時満三才の男子であったことは当事者間に争いがないから、本件事故がなければ満一八才から六七才に達するまで稼働しうるものと推認できる。そして憲司郎は右期間を通じ、昭和五四年度賃金センサス第一巻第一表による産業規模計学歴計の男子労働者一八ないし一九才の平均年間給与額一四二万四、三〇〇円を右期間毎年継続して得るものと推認でき、憲司郎の逸失利益算定について控除すべき生活費は収入の五〇パーセントとするのが相当であるから、ホフマン式計算法によって憲司郎の逸失利益の本件事故時における現価を算出すると、金一、二三五万一、五二九円となる。

142万4,300円×0.5×17.344=1,235万1,529円

(二)  慰藉料

本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、憲司郎が死亡によりこうむった精神的損害を慰藉する額としては金四〇〇万円が相当である。

(三)  しかして、原告が憲司郎の母であり、唯一の相続人であることは当事者間に争いがないから、原告は右憲司郎の損害を相続したことが認められる。

2  医療費

《証拠省略》によれば、原告は、憲司郎の医療費として池田病院に対し、金一万一、五一〇円支払ったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

3  葬儀費及び仏壇購入費

《証拠省略》によれば、原告は憲司郎の葬儀費として金五二万一、一九〇円、仏壇購入費として金一七万五、〇〇〇円、合計金六九万六、一九〇円を支出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかしながら、三才であった憲司郎の葬儀費及び仏壇購入費としては、金四〇万円の限度をもって相当因果関係のある損害と解する。

4  原告の慰藉料

本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、原告が憲司郎の死亡によりこうむった精神的損害を慰藉する額としては、金二〇〇万円が相当である。

5  過失相殺

《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(一)  原告は、本件事故当日、午後三、四時頃長男訴外林宏充(六才)、次男憲司郎(三才)及び訴外河本寛(四才)の三名を乗用車に乗せてきて本件公園中央駐車場に右三名を降ろし、右三名に対し「たこのすべり台のところで遊んでいなさい。あぶないことをしないように。その場所を離れたらいけない。」と言ったのみで、帰着時間を告げることもなく、そのまま乗用車で本件公園から約一・六キロメートル離れた阪急曽根駅近くのスーパーへ買物に行った。原告は、乗用車を利用して右の距離にあるスーパーへ買物に行くのであるから、右三名を同乗させて同行することは容易であった。

(二)  原告は、それまでも数回、このように憲司郎らを本件公園に残したまま、自らは買物に行くことがあった。

(三)  原告は本件公園内を充分知悉していない。

(四)  中央駐車場で降ろされた右三名は、そこから歩いて近くの児童遊戯場内のたこすべり台等でしばらく遊んだ後、通称バラの通り道を通り、本件間隙から柵内に入り、どんぐりを拾った後、好奇心から水際を歩いていて、憲司郎が本件池に転落した。

(五)  原告は右三名を少くとも約一時間放置していた。

これらの事実によれば、憲司郎の監護義務者である原告としては、好奇心の強い幼児を自己が充分知悉しない本件公園内で遊ばせるに際しては通常以上に留意すべきであったのであり、自ら同伴するか、または危険箇所の有無について十分な調査をなしたうえで長男ともども危険箇所に近寄らないようよく言い聞かせるなど憲司郎の身体の安全を充分に配慮すべき注意義務があったのにこれを怠り、漫然と前記認定の注意を与えたのみで幼い子供達を少なくとも約一時間放置して充分に監護をしなかった過失があり、この過失が本件事故の発生に大きく寄与していることは明らかである。

そして、幼児とその親は身分上ないし生活関係上いわゆる一体をなすものと解されるから、被害者(幼児)の親に過失がある場合には、これを被害者側の過失として、過失相殺をなすのが相当である。

以上の認定事実に照らせば被害者側の過失の程度は本件池設備の設置ならびに管理上の瑕疵の程度に比して大きいものと認められ、その過失割合は七〇パーセントをもって相当とする。

6  したがって1ないし4項による原告の損害は金一、八七六万三、〇三九円となるところ、右損害額につき七〇パーセントの過失相殺をすると、被告に請求しうべき額は、金五六二万八、九一一円となる。

7  原告が本件訴訟の遂行を弁護士に委任したことについては当裁判所に顕著な事実であり、本件事案の内容、認定額等諸般の事情に鑑み、本件事故による損害として原告が被告に賠償を求めうべき弁護士費用相当額は、金五六万円をもって相当とする。

五  結論

以上の事実によれば、原告の本訴請求は、損害金六一八万八、九一一円と、本件事故発生日である昭和四九年一一月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用し、仮執行宣言の申立はその必要がないものと認めこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林繁 裁判官 笠井達也 渡邊了造)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例